公益財団法人 環日本海環境協力センター NPECは、日本海及び黄海における海洋環境保全に寄与することを目的に活動しています。

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"海洋ごみ問題シンポジウムinとやま"開催結果の概要について

 2005年7月15日(金)、富山県富山市の富山県民共生センター(サンフォルテ)において、富山県と(財)環日本海環境協力センターの主催で「海洋ごみ問題シンポジウムinとやま」が開催された。
このシンポジウムには、環境保全活動に取組んでいる県民、漁業関係者、廃棄物処理業関係者、国、都道府県、市町村の担当者等約150人が参加し、東京海洋大学の兼広春之教授が「我が国における海洋ごみ問題の現状と今後の対策について」と題して基調講演を行った。
引き続き、(財)環日本海環境協力センターの土肥調査研究部長、クリーンアップ蒲生の伊藤代表、鴨川にもサケを呼ぶ会の古金事務局長、鹿児島大学の藤枝助教授から各地域における海洋ごみ問題への取組状況について報告があった。
さらに、座長に金沢工業大学の敷田麻実教授をむかえて、「環日本海地域における海洋ごみ問題へのアプローチについて」のテーマでパネルディスカッションも行った。会場からは「海洋ごみ問題は、具体的な削減対策を実施する時期にきている」との意見がだされるなど、海洋ごみ問題等海洋汚染の防止に向けて市民一人ひとりの行動や国際的連携・協力体制の早期構築の重要性などが参加者の間で共有されました。
1. 開催日時
  2005年7月15日(金) 13:30〜17:00
2. 場所
  『富山県民共生センター2Fホール』(富山県富山市湊入船町6-7)
3. 出席者
  環境保全活動(海辺の漂着物調査、県土美化活動等)に取り組んでいる県民、事業者(漁業関係者、廃棄物処理業関係者等)、国、都道府県、市町村の担当者、NGO等 約150名
4. プログラム
(1) 13:30 開会挨拶
  数田富山県生活環境部長よりシンポジウム開催のあいさつがありました。
 本日のシンポジウムを通して、より多くの方々に「海洋ごみ問題」について知っていただき、環日本海地域の相互理解を深めるとともに、私たち一人ひとりが問題解決のために何をすべきかを考え、今後の具体的な行動へとつなげていくことができればと期待している。
(2) 13:40 来賓挨拶
  高橋環境省環境保全対策課課長補佐及びトゥカーリンUNEP NOWPAP RCU所長より来賓あいさつがありました。
(トゥカーリン所長)
海ごみはいまや国際的な懸念事項となっており、海ごみは景観を損なうだけではなく、大きな経済的損失をも引き起こしている。さらに、海ごみによる、海洋生物に対するダメージは非常に大きなものとなっている。
北西太平洋行動計画(NOWPAP)では、海ごみに対する持続可能な管理について新しいプロジェクトを開始する予定である。このプロジェクトは、日本、中国、韓国、ロシアの各国で行われる活動をベースとし、各国のモニタリングプログラム、クリーンアップ活動や冊子、ポスターの準備など啓発・教育キャンペーン、水産、船舶、観光、沿岸での建設などの各部門にむけたガイドラインの作成、廃棄物管理政策の整備と改善など、多くの要素を含んだものである。
このNOWPAPの海ごみ管理に関する新しいプロジェクトにおいて、NPECがCEARACとともに主導的役割を担っていくことを期待している。
(3) 13:50 基調講演 発表資料
  兼広 春之東京海洋大学教授から「我が国における海洋ごみ問題の現状と今後の対策について」と題して、基調講演があった。
 海岸における漂着ごみの構成割合は、そのほとんどがプラスチック製のものでる。
全国の海岸の漂着ごみ量は、約5万〜15万(かさ比重0.3)tであり、そのうちプラスチック製のものは約1万〜2万t程度と推定している。
海洋ごみは、海流がぶつかりあうところで多く分布する傾向がある。
離島は海流にのって様々なものが流れついており、その特徴として、漁業系漂着ごみ量(漁網,ロ−プ,フロートなど)が膨大、ポリ容器(工業薬品用危険)数が膨大、外国からの漂着ごみが非常に多いことなどがあげられる。
漂着ごみの特徴としては、@塩分,水分,砂を含む嵩張るものが多く,量が膨大である、Aリサイクル化が困難であり、ほとんどが埋め立て処理、B漂着物の回収や処理は、地方自治体(離島の市町村)で処理している、C処理費用は数万円/トンである、D生活系と漁業系の割合が高い。
隣の韓国では、漂着物対策の1つとして、国の漂着物買取制度を導入している。
漂着ごみ問題は国を超えた問題であり、その解決には国際間の協力が必要である。
漂着ごみ問題の解決に望まれることは、行政、企業、一般市民の各主体がこの問題に積極的に関わることであり、@行政は、海洋環境政策の策定、大量生産、消費社会からの変革、A企業は、環境低負荷型材料の開発、環境コストの負担、B一般市民は、大量消費生活の見直し、環境コストの負担などを行うことが必要である
(4) 14:30 状況報告
  各地域における海洋ごみ問題への取組み状況について、報告がありました。
(財)環日本海環境協力センター
(土肥調査研究部長)
日本、中国、韓国及び国内沿岸自治体と共同で実施している海辺の漂着物調査実施状況について報告がありました。
クリーンアップ蒲生
(伊藤代表)
蒲生干潟での漂着ごみ調査状況について報告がありました。
鴨川にもサケを呼ぶ会
(古金事務局長)
鴨川から海に流れるごみの量など、ごみ問題への取組み状況について報告がありました。
鹿児島大学 発表資料
(藤枝助教授)
国内各地域で行われている漂着ごみのモニタリング手法の整理と今後の進め方について報告がありました。
現時点での海洋ごみ問題には、多種多様なごみの混在、発生域と被害域(漂着域)が異なる、費用の問題、法の問題、国際的な問題などいろいろな要素が複雑に混ざりあっており、有効な解決策は見出せられていない。
国内における海岸漂着ごみモニタリング手法は、調査範囲と専門性によって、@市民参加型、A研修者実施型、B研究者実施型、C定点単独調査型とにそれぞれ分類することができる。
また、モニタリング手法の目的としては、専門性の低いものは「現象の把握」、専門性の高いものは「原因の追究」となる。
現象把握を目的とした広域調査結果は、国民への意識啓発活動や国レベルでの回収対策に、原因追及を目的とした広域調査の結果は、発生源が広域にわたる発生抑制対策に、定点において重点的に実施する特定アイテム調査は、地域の発生抑制対策にそれぞれ利用できる。
漂着ごみ問題を一度にすべて解決できるモニタリング手法は存在しない。これら調査は個別に実施され、結果を含めて連携がない。漂着ごみ問題の特性を考えると、第一義的なモニタリング手法としては市民参加型に重点を置くことが重要である。
今後は、海洋ごみ問題の解決に向けてそれぞれのモニタリング手法・プロセスを公表し、それぞれの主体が、主体的に参画できるルールやツールを検討する"場(プラットフォーム)"を構築することが必要である。
(5) 15:30 パネルディスカッション
  座長に敷田金沢工業大学教授をむかえて、「環日本海地域における海洋ごみ問題へのアプローチについて」をテーマにパネルデイスカッションを行いました。
【写真左】 パネルディスカッション様子
(左から) 敷田金沢工業大学教授(座長) 藤枝鹿児島大学助教授(パネラー) 高橋環境省環境保全対策課課長補佐(パネラー) 道井富山県漁協青年部連合会会長(パネラー) 小島JEANクリーンアップ全国事務局代表(パネラー) 川岸(財)とやま環境財団専務理事(パネラー)
【写真右】 シンポジウム会場の雰囲気
【パネルディスカッション発言要旨】
・海岸ごみの問題は景観の問題から経済の問題にもなってきている。(敷田教授)
・とやま環境財団では様々な関係団体といっしょにごみ拾いを実施しているが、この清掃活動を毎日実施することは可能か?(敷田教授)
・拾った廃棄物の処理の問題から、なかなか難しい。しかしながら、アダプトプログラム助成事業などを有効に活用し、効果的なごみ拾いを実施していただきたいと思っている。(川岸専務)
・底引き網を行うたびに海洋ごみが拾い上げられる。これらの処理費用は、漁業者が自ら支払っている。(道井会長)
・海洋ごみ処理費用を国等が負担するだけでは解決しない。なぜなら、海洋ごみは人の出入りしない、できない場所にも多数散在しているからである。(小島代表)
・海洋ごみ問題は、唯一(ごみ処理)責任者不明の問題でもある。(藤枝助教授)
・漂着ごみの所有者(原因者)の特定は難しく、(このようなこともあって、)現在の法体系における適正な処理手法を見出せていないと思われる。しかしながら、海洋ごみ問題に係る関係省庁担当者連絡会議などを活用し、現状の法制度や海洋ごみの実態について情報を収集・整理し、それらを踏まえた課題や今後の対策等について検討していきたい。(高橋補佐)
・富山県内での海洋ごみ事業は互いに連携・協力されているのか?(敷田教授)
・直接的な連携・協力体制は構築されていないと思われる。(道井会長)
・沖縄県や神奈川県の一部では、行政、事業者、NGO、一般市民等が情報を共有し、海洋ごみ事業を連携・協力して展開しているものの、ほとんどの地域では構築されていないと思われる。それぞれの主体と連携・協力体制を構築するには、それぞれの主体といっしょになってその仕組み作りから始める必要がある。(小島代表)
・富山県内での海洋ごみ問題に関する情報の共有の場の構築等にNPECが主体的に関わりあっていきたい。(土肥調査研究部長)
・全国レベルでの海洋ごみ問題の情報共有の場としては、JEANの主催で「海ごみ問題に関する関係者懇談会」が開催されており、この会議には環境省、国土交通省、海上保安庁等の関係省庁、MB21などの関係団体、鹿児島大学など多種多様な関係機関画が参加している。このような場で知恵や知識を互いに出し合って、できるところから実行していければと思っている。(藤枝助教授)
・漂着ごみ問題が深刻となっている離島を、海のごみ問題をみんなで考える舞台("場")として、来る11月3日から5日にかけて島根県の隠岐の島で島ごみサミットを開催する。この会議の特徴の1つには、実際の離島における海洋ごみ問題を体感するための参加者全員による海岸清掃も含まれている。(小島代表)
・島ごみサミットを開催することによる成果は?(敷田教授)
・前回の対馬での島ごみサミット会議では、海ごみ問題に関するプラットホームの構築の必要性が課題としてあげられ、それをうけて「海ごみ問題に関する関係者懇談会」を開催するなど着実に成果は得られていると思っている。(小島代表)
・漁場環境における海洋ごみ問題は全国規模で問題となっており、各地で対策がそれぞれ進められている。日本の海洋ごみ問題には、関係団体、NGOが積極的に活動を実施しているが、環境省等の関係省庁はこれら問題に積極的に関わっていないのではないか。環境省等が中心となって産官学共同でのネットワーク体制を是非構築していただきたい。(道井会長)
・今後、これまでのこの問題への関わりやその検証をも含めて関係省庁連絡会議で検討し、国としても積極的にこの問題に関わっていきたい。(高橋補佐)
・海洋ごみ問題を進めるにあたっては、縦割り行政ではなく横とのつながりを持って進めることが大切である。(藤枝助教授)
・海洋ごみ問題は処理対策だけでなく、ごみの発生抑制対策も考える必要がある。(兼広教授)
・海洋ごみ問題解決へのアプローチとしては、当事者意識を持つことが大切ではあるが、日本国内のごみ発生抑制に関連する法体制整備は不十分と思われる。(一般参加者)
・ごみの発生源の形態を考えると、一般市民から事業者までありとあらゆる主体が関わりあっていることから大変難しい問題であるが、発生抑制は重要な課題と考えている。(高橋補佐)
・海洋ごみ問題の実態や課題は既に認識されている。関係省庁はもっと積極的にこの問題に関わりあうべきである。隣の韓国では国が漁業者等の引き上げた海底ごみを買い取る制度が構築されている。海洋ごみ問題への対策が時間切れになる前に、早く、具体的な海洋ごみ対策を実行すべきである。(RCU所長)
(6) 17:00 閉 会
  三田(財)環日本海環境協力センター専務理事よりシンポジウム閉会のあいさつがありました。
 海洋ごみ問題は、ナホトカ号等の油流出事故による海洋汚染問題と同様、今後取り組んでいかねばならない重大な海洋環境問題であり、特に地域を越えて被害、影響が及ぶ越境ごみへの対応については、環日本海地域の協力体制の構築が必要不可欠である。
今回のシンポジウムにより得られた共通の認識を踏まえ、当センターをも含む各機関が主体的に連携・協力して、今後の海洋環境保全事業を展開・推進してまいりたい。
今後とも皆さん一人ひとりのご協力をよろしくお願いします。